教育美術・佐武賞

教育美術・佐武賞について

 「教育美術・佐武賞」は、公益財団法人教育美術振興会(当時:財団法人教育美術振興会)の初代理事長として、長い年月ひたすら美術教育の振興に心をくだき、生涯をかけて大きな力を尽くされた佐武林蔵先生(昭和43 年没)のご寄付によって、昭和41(1966)年に設立されました。
 現場の先生方の実践に光をあてることにより、子供と共につくりあげた優れた授業を広め、指導者の育成と、図画工作・美術科教育の発展に貢献することが本賞の狙いです。そして現場の先生方が日々の実践の悩みから見出した課題や、新学習指導要領の中から見つけた課題などを解決するために、どのような実践をしているかを大事にしています。
 本賞が契機となって、学校現場における実践活動が活性化し、研究の輪が一層広がることを願っています。


※佐武賞について動画による説明 → https://www.youtube.com/watch?v=8VFZLkljq5Q

□教育美術チャンネル(Youtube) → https://www.youtube.com/watch?v=LCLGYEsE6vY

第60回 教育美術・佐武賞

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〈題名〉
造形活動が生み出す子どもの変容の連鎖
大人への影響と園運営の質向上

〈執筆者〉
新井 馨 (あらい・かおり)
西九州大学 准教授

※第60回 教育美術・佐武賞 受賞論文について発表頂いております。
 是非、ご視聴ください。

 https://youtu.be/LMxoRjDCr-I

 本研究は,造形活動が子どもに与える影響とその変容が,大人(保育者・保護者)へ波及し,園全体の変化を生む過程を実践的に考察したものである。対象のこども園において,2023年度実施のアートワークショップを起点とし,その前後2022年,2024年と比較・検討した。研究の背景として,実践先の園では造形活動の重要性が認識されていたが,現場では「子どもがやりたいことに応えられているのか分からない」「造形活動を設定する自信がない」といった課題があった。こうした保育者の苦手意識が子どもたちの表現の幅を制限する要因になっていた。
 本研究では,2023年度に「アートデイ」と称するワークショップを実施し,子どもの変容を分析した。その結果,①自己表現への自信の向上,②他者との関わりの深化,③日常生活における主体性の向上の三点が確認された。次に,保育者の視点の変容を検討するため,ワークショップ前年(2022年)と当年(2023年)の保育日誌を分析した。2022年度は「子どもが活動している様子」を中心とした記述が多かったが,2023年度には「子どもがどのように考え,試行錯誤しているか」に焦点が移り,造形活動における学びの過程を見取る視点が強まっていた。
 さらに,アンケート調査を通じて,子ども・保育者の変容が園や保護者へ与えた影響を分析した。アンケートでは,91.7%の保護者が子どもの創造力や表現力の変化を実感し,家庭での遊び方にも影響が見られたと回答。また,園長の回答から,子ども主体の学びを重視する園の方針が強化されたことが明らかになった。
 このように,造形活動による子どもの変容が波及する様相を示すことができた。この結果は,普段の保育へのまなざしの変化を自覚しながら言語化に苦労していた保育者の自信にもつながり,さらなる良いサイクルを生むと考えられる。

※論文は下記よりダウンロードできます。

第60回 教育美術・佐武賞 佳作賞

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〈題名〉
インクルーシブ教育を実践するための心理的安全性が確保された美術室経営

〈執筆者〉
松尾 英治 (まつお・えいじ)
東京都 大田区立田園調布中学校 副校長

※第60回 教育美術・佐武賞 受賞論文について発表頂いております。
 是非、ご視聴ください。

 https://youtu.be/Ol3oONlx7oo

 インクルーシブ教育は,学習に困難を抱える生徒や授業に参加できない生徒も含めて,誰一人取り残さない教育である。また教育格差の現実も学校の外で存在している。いかなる環境下でも学校にさえ通えば,誰もが今後の人生が切り開けるような力を持てるようにしなくてはならない。
 授業は生徒にとって「心理的安全性」の確保ができていないと十分に学べないし,何かに気づくこともできない。誰もが学校で学んだこと,考えたことを今後の人生に生かしてほしいのである。そこで本論文の研究テーマを「インクルーシブ教育を実践するための心理的安全性が確保された美術室経営」とした。本論文は,題材の工夫を述べるものではなく,「美術室の空間」,「美術室の人材」について考察し,そのための工夫の視点の提案である。
 「美術室の空間」として,美術室内の机,展示パネルなどの配置に関する仕掛けについて述べる。美術室に入ると題材に関連する情報を得られたり,他学年の作品展示を鑑賞することができたりするようにしてある。また作品完成後は簡易的な撮影スタジオで撮影できるようにもなっている。美術室の配置の工夫を補うのは作業工程に合ったピクトグラムやサイン計画のグラフィックデザインである。
 また「美術室の人材」については,学習の補助・心のケアをするメンター系の人材と,探究を支援をするクリエイター系の人材,学校図書館司書の実践を報告する。
 これらの「美術室の空間」と「美術室の人材」を組み合わせて,美術室を経営する。こうしたら良い美術室になるという提案ではなく,美術室経営において工夫すべき視点の提案となっている。
 事例として挙げるのは,インクルーシブ教育を掲げる世田谷区立桜丘中学校での令和5(2023)年度の実践である。

※論文は下記よりダウンロードできます。