教育美術・佐武賞

教育美術・佐武賞について

 「教育美術・佐武賞」は、公益財団法人教育美術振興会(当時:財団法人教育美術振興会)の初代理事長として、長い年月ひたすら美術教育の振興に心をくだき、生涯をかけて大きな力を尽くされた佐武林蔵先生(昭和43 年没)のご寄付によって、昭和41(1966)年に設立されました。
 現場の先生方の実践に光をあてることにより、子供と共につくりあげた優れた授業を広め、指導者の育成と、図画工作・美術科教育の発展に貢献することが本賞の狙いです。そして現場の先生方が日々の実践の悩みから見出した課題や、新学習指導要領の中から見つけた課題などを解決するために、どのような実践をしているかを大事にしています。
 本賞が契機となって、学校現場における実践活動が活性化し、研究の輪が一層広がることを願っています。

第53回 教育美術・佐武賞

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〈題名〉
生活の中の芸術と関わり、表現活動を通して楽しく豊かな生活を創造する題材の開発と手立ての工夫

〈執筆者〉
古家 美和 (ふるいえ みわ)
勤務先:兵庫県 たつの市立御津小学校 教諭 (応募当時)
出身校:島根大学 教育学部 学校教育教員養成課程 美術教育専攻

〈概要〉
 子供たちが自然の中で豊かな体験をしたり、芸術に触れ合って感性を高めたりする機会が減っていることが以前から指摘されている。これは今回実践を行った3年生の子供たちにおいても当てはまることであり、生活の中にある自然や環境と関わり、体の感覚や体験を基にして表現することの経験が乏しい。このような課題から、感性や五感を通して自分の身の周りのものに働きかけて価値を引き出すことや感動や感情を基にした表現活動を行う必要があると考えた。新学習指導要領の芸術教科の目標においても「自分と生活」との関わりについて示された。子供たちの生活を考えると教科の領域に捉われることなく感覚を融合して活動を行っているために、本研究では「冬」をテーマに各教科を関連づけた表現活動を扱う題材を開発・実践し、教科横断的な教育を行った。題材のはじめに共通する体験として教室の外に出て冬の世界を体全体で感じる活動を行い、視覚、聴覚、触覚など体の諸感覚を使って感じたイメージや思いを冬の記録としてオノマトペで表した。その後、絵・音楽・体の動きと様々な表現活動を行った。冬という共通テーマを基に各教科における表現活動を相互に関連づけたことは、子供たちの心や体の感覚を開かせて表現方法を拡張することや想像力を育むことにつながった。冬の音探しを礎に本題材の活動をスタートさせたことが、表現に対する思いや考え・イメージを深め、その根底に働く感性を育成することができたと成果を感じた。絵を媒体にした音楽作りや身体表現では即興的に自由に表す楽しさを子供たちが感じていた。創作への抵抗感を軽減し、表現意欲を高めるのに絵は効果的に働いた。
 今後の課題として、図画工作科との関連付けを検討することを通して各教科で育てたい資質・能力を明確にして題材を構成するカリキュラム・マネジメントを充実したい。

※論文は下記よりダウンロードできます。

第53回 教育美術・佐武賞 佳作賞

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〈題名〉
子供の成長を支える美術教育の実践
~「マイ・イソップ物語」の制作と鑑賞活動から ~

〈執筆者〉
潮木 邦雄 (うしおぎ くにお)
勤務先:静岡県函南町教育委員会 (応募当時)
出身校:兵庫教育大学大学院

〈概要〉
 子供たちの作品を大切にしたいと思う。作品には成長途上にある子供の感性や知恵が息づき、発想し、構想してつくりだす力は、これからの生活を楽しく豊かに創造する態度として、自分自身を支え、さらに作品は「成長の記録」でもあると考えるからだ。
 こうした思いから、題材の開発と授業を重ねてきたのが「マイ・イソップ物語」の実践研究である。指導は事前の活動として、朝読書で「イソップ物語」の読み聞かせから始めた。奴隷であったイソップは困難にあっても、考え、表現する力で生き抜き、その寓話と教訓は「イソップの知恵」であることを伝え、「自分のイソップ物語」をつくることを提案し授業につなげた。まず、「物語づくり」と「登場人物等の設定」、まとめの「教訓」を考え、次に物語の展開を「起・承・転・結」の4場面を絵と文で構成し表現することを共通課題とした。さらに、裏表紙には友達の感想を記入する欄を設け、互いに読みあい感想を記入する鑑賞活動も取り入れた。友達や家族からのコメントで評価され承認されることは、自己肯定感の向上とともに、他者理解を深めて良好な関係づくりに寄与した。
 校長職となり、この実践を「卒業記念制作」の授業として実施した。また、従前の活動に加え、8年後に成人式を迎える自分に対する「お祝いメッセージ」や、鑑賞活動も担任教師や家族にも参加してもらうなどして卒業を祝うものとした。作品は校長室で保管し、成人式に12歳を生きていた自分の意識と知恵の記録をプレゼントする趣向とした。
 8年後、くしくも成人式を主宰する教育長として子供たちと対面した。成長した子供たちと再会し「マイ・イソップ物語」を手渡すことができたのは教師冥利であった。
 本研究は、20年間に渡る「題材の開発」と「指導の具体」、また子供たちの意識から生まれる表現活動を通した「成長を支える美術教育」の実践について報告するものである。

※論文は下記よりダウンロードできます。

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